2020.05.20

264号 川崎病

「川崎病」は全身の血管に炎症が起きる病気です。1967年に小児科の川崎富作博士が発表し、博士の名前をとって川崎病という病名になりました。川崎病は世界共通の病名です。(英語では「Kawasaki Disease」)感染する病気ではありませんが、0歳から4歳の子ども、特に1歳前後の乳幼児がかかりやすく、日本では一年間に1万5千人くらいのお子さんが発病しています。早期に適切な治療を行えば、重症化することはほとんどありませんが、時に心臓に後遺症が残り場合があります。

◆原因 川崎病はざんねんながら、未だに「原因不明の病気」です。世界各地で報告されていますが、特に日本人、日経アメリカ人、韓国人などアジア系の人々に多く見られることや、女の子よりも男の子の方が発症人数が多いことなどから遺伝的な要因や、ウイルスや細菌の感染症による要因が関係しているのではないかと考えられていますが、発症の原因となるウイルスや細菌はまだ特定されていません。

◆症状と診断  代表的な症状は主に6つ。(1)5日以上続く38度以上の発熱 (2)目の充血 (3)いちごのように舌がブツブツと赤くなる (4)全身にさまざまな形の発疹が現れる (5)手や足が腫れ、熱が下がった後に指先から皮がむける (6)首のリンパ節が腫れる です。これら6つの症状のうち、5つ以上当てはまる場合、または4つ以下しかあてはまらない場合でも、状況によっては川崎病と診断されることがあります。このほかにBCGのあとが赤く腫れる、下痢、腹痛、関節の痛みなどが起こることもあります。 
 川崎病は全身の血管に炎症が起こるため、全身のあらゆる臓器に合併症を起こす可能性があります。その中でも特に注意すべきは、冠動脈の炎症により起こる疾患です。「冠動脈」は心臓に酸素や栄養を届ける重要な血管です。
 ウイルスや細菌などの外敵が侵入すると、それを防ごうと免疫システムが働きます。外敵と戦うために白血球が増え、血管壁に集まり炎症を起こします。炎症は組織を防御するための、外敵と免疫システムとの戦いです。しかし、この免疫が異常に反応し過ぎると、外敵だけでなく自身の血管壁を攻撃してしまうことがあります。冠動脈の血管壁がこの反応によって破壊されもろくなり、そのもろくなった部分が拡大してコブ(瘤)になることがあります。これが冠動脈瘤(かんどうみゃくりゅう)です。冠動脈瘤ができると、それが原因となって将来的に動脈がつまり、心筋梗塞がおこる場合があります。心筋梗塞の多くは動脈硬化からくる生活習慣病ですが、川崎病では子どもでも心筋梗塞で死亡するケースがあります。

◆治療  血管の炎症を抑えて血液が固まらないようにするとともに、冠動脈瘤を作りにくくする治療を行います。まず、アスピリンという薬を内服します。アスピリンは、血管の炎症を抑えたり、熱を下げたり、血栓ができるのを防ぐ効果があります。そして、免疫グロブリン製剤という薬を点滴で投与し、全身の炎症を抑えて冠動脈瘤ができるのを防ぎます。免疫グロブリンとは血液中の成分で、免疫システムにおいて重要な役割を担うタンパク質です。12~24時間かけて点滴で注入するため、5~7日程度の入院治療が必要です。これら2つの薬の併用で効果がみられない場合や、重症化しそうだと判断された場合には、炎症を抑える効果がより強いステロイドを追加することもあります。
 熱が下がり、冠動脈瘤がなければ、退院できます。ただし、その後も2~3か月間はアスピリンを服用し、小学校に入学するまでは、定期的に心臓の検査を受けます。日常生活や学校生活、運動など、普段どおりにすることができますが、再発することもあるので、発熱した際には川崎病の症状に注意してください。